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重症大動脈弁狭窄症に対する低侵襲治療:
TAVR(TAVI)のご紹介〜

1 大動脈弁狭窄症について

 心臓は、全身に血液とともに酸素を供給する、ポンプのような役割をしています。全身に酸素を届けたあとの血液は右心房から右心室へ戻り、肺動脈から肺に送られます。肺で酸素を受け取った血液は左心房から左心室へ送られ、大動脈を通って全身へ送られます。この一連の動きは休むことなく、1日におよそ10万回も繰り返されています。(図1)

 大動脈弁は、心臓の左心室と大動脈の間にある3枚の弁であり、この大動脈弁が、癒合(弁が互いにくっつく)など何らかの原因で動きが悪くなり、弁の開口部が狭くなった状態を『大動脈弁狭窄症』といいます。生まれつきのものや加齢、動脈硬化などが多くの原因とされています。狭窄が軽度のうちはほとんど自覚症状がありませんが、狭窄が高度になると左心室から大動脈への血液の流入が妨げられ、心不全(息切れやむくみなど)、失神(意識を失う)、狭心痛(胸の痛み)、突然死を生じる可能性が高くなります。

図1. 大動脈弁について

2 当院の大動脈弁狭窄症に対する取り組みに関して

 当院では、2010年8月から、ご高齢者の硬化性大動脈弁狭窄症に対して、順行性アプローチよる経皮的バルーン大動脈弁形成術(PTAV)の取り組みを積極的に施行してまいりました。PTAVは、一時的な患者さんの日常生活動作の改善はできるものの、再狭窄率が高いため、その有用性に限界があります。

 世界においては、PTAV以上のさらなる有用性かつ安全性を追究した非侵襲的な治療として、ステントバルブを使用した経カテーテル的皮大動脈弁置換術(TAVR)が、フランスのルーアン大学のAlain Cribier教授により2002年に考案されました。以来、ヨーロッパ・北米を中心に、現在、世界で10万人以上の患者さんに行われています。

 本邦でも2013年10月より、TAVRが保険償還となり、すでに約1200名(2015年3月現在)の方が治療を受けられおり、現在のところ、良好な成績(術後30日死亡率1%前後)を収められております。その背景には、TAVRを安全かつ有効に普及させることを目的とした、日本循環器学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会の4学会より構成されたTAVR関連学会協議会により、ハートチーム体制の整った実施施設基準を満たした医療機関でのみ、厳格にTAVRを行うことを義務付けられている点が、本邦における良好な成績・安全性を確保できている理由の一つであります。

 当院も、“2014年7月11日”に、TAVR関連協議会より認定施設として承認され、“2015年5月”よりTAVR開始することができるようになりました。

3 TAVRとは

 経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)とは、重症の大動脈弁狭窄症に対する治療法で、外科的治療のように開胸することなく、また心臓の動きも止めることなく、カテーテル(細い管)を使用して人工弁を留置します。低侵襲(体にかかる負担が小さい)で、人工心肺を使用しなくて済むため、高齢で体力の低下した方やその他の合併疾患のため外科的治療を受けられない方などが対象(詳細は下記)となります。

 この治療では生体弁を足の付け根の動脈から挿入する“経大腿アプローチ”(図2-①)と肋骨の間を小さく切開し、心臓の先端(心尖部(しんせんぶ))から挿入する“経心尖アプローチ”(図2-②)があります。足の付け根の動脈から挿入する方法が可能と判断されれば足の付け根の動脈からの挿入方法を選択します。もし、血管が細いなどの理由で足の付け根の動脈からの挿入が困難と判断されれば、心尖部からの挿入を選択します。

図2. 経大腿アプローチと経心尖アプローチ

 カテーテル人工弁は、金属でできたフレームの中に生体弁(動物の組織から作った弁)を縫い付けたものです。(バルーン拡張型大動脈弁と自己拡張型大動脈弁がありますが、現在、使用出来るのはバルーン拡張型大動脈弁です。)

図3. カテーテル人工弁
この生体弁は、カテーテルを用いて経大腿アプローチ、または心尖部アプローチから挿入され、十分に開かなくなった大動脈弁の上に留置されます。

4 TAVRの実際

 TAVR治療前に、経胸壁・経食道心臓超音波検査、CT検査などを行い、心臓と全身の評価を行います。TAVRでは治療前の評価が非常に重要で、術前の画像検査でアプローチ部位、人工弁サイズ、リスク(冠動脈閉塞、大動脈弁輪部破裂など)の評価をハートチームで行います。現在、TAVR治療は全身麻酔と局所麻酔の両方が行われていますが、治療中に合併症が起きた際の迅速な対応や経食道心臓超音波検査を用いた観察のためには全身麻酔下の手術が適しています。呼吸器疾患の合併など全身麻酔の適応とならない方は、より身体侵襲性は低い局所麻酔下で手術を行います。

図4. TAVR治療の流れ

 経大腿動脈アプローチ(図・動画5)の場合は、大腿動脈を穿刺し、16~18 Fr(直径6mm程度)の治療用シースを挿入します。経心尖アプローチであれば、左前胸部を小切開し(5~7cm)、18Frのシースを心尖部から挿入します。治療用ガイドワイヤーを大動脈弁に通過させた後に、大動脈弁をバルーン拡張し、続いてカテーテル人工弁を大動脈弁まで進め、バルーンを拡張することで大動脈弁にカテーテル人工弁を留置します。バルーン拡張時やカテーテル人工弁留置時には、高頻拍ペーシングを行ってデバイスの移動を防ぎます。人工弁留置後は、心臓超音波検査や大動脈造影検査を行い留置した弁の状態、血管合併症などの確認を行います。必要であれば再度バルーン拡張などを行います。問題が無ければシースを抜去します。経大腿動脈アプローチの場合は、止血用デバイスを使用した用手圧迫、もしくは外科的血管形成で止血を行います。経心尖アプローチ(図・動画6)であれば、心尖部、開胸部の縫合を行い止血、閉創します。術後は集中治療室で管理しますが、経過が良ければ短期間で集中治療室から一般病室へ戻ることができます。治療後は早期よりリハビリを開始します。治療後安定した時期に心臓超音波検査などで留置した大動脈弁の評価を行い、周術期合併症のない事を確認した上で退院となります。

図・動画5.経大腿動脈(TF)アプローチ

図・動画6.心尖部大腿動脈(TA)アプローチ
5 対象となる患者さんは?

 TAVR手術は、高度の大動脈弁狭窄症で症状(失神、狭心痛(胸痛)、心不全(息切れ)を有する患者さんのなかで、合併症などにより★通常の心臓手術:大動脈弁置換術が、一般的には困難な方が対象となります。

*Guidelines for Surgical and Interventional Treatment of Valvular Heart Disease(JCS 2012)参照
項目 軽度 中等度 高度
連続波ドプラによる最高血流速度(m/s) 3.0 3.0-4.0 ≧ 4.0
簡易ヴェルヌイ式による
収縮期平均圧較差(mmHg)
< 25 25-40 ≧ 40
弁口面積(cm2 > 1.5 1.0-1.5 ≦ 1.0
弁口面積係数(cm2/m2 <0.6

★通常の心臓手術:大動脈弁置換術とは、患者さんの胸の真ん中を切開し、人工心肺装置を装着した上で心臓を止め、大動脈弁を切除し、人工弁に入れかえる手術です。
この手術は大がかりとなるため時間がかかり、かなりのダメージが体に加わります。
そのため、ある程度、体力に余裕がある方でないと手術を受けることはできません。

6 TAVR対象患者さん

 以下に示すような方はTAVRの適応となります。下記の内容をまとめた印刷用ページも公開しておりますのでご活用ください。

  1. もともと日常生活は、自立し元気であるが、下記、何らかの理由で手術ができない方
  • 高度の大動脈石灰化(外科手術の際に必要な大動脈遮断が施行できないため)
  • 食道の胸骨前再建後(開胸をすることで食道を傷つける可能性があるため)
  • 冠動脈バイパスグラフト後(開胸によってバイパスを傷つける可能性があるため)
  • その他
  1. 合併症のために体外循環を使用できない

 外科的手術を行うには心臓を一度止める必要があるため、体外循環が必要となります。下記、何らかの合併症により体外循環を使用できない患者さんはTAVRの適応となります。

  • 頸動脈狭窄(体外循環の使用により脳梗塞の危険性があるため)
  • 肝機能低下(凝固機能異常のために、体外循環の使用ができないことがあります)
  • 肺疾患
    (体外循環の使用には人工呼吸管理が必須となりますが、肺疾患により呼吸機能が悪い方は人工呼吸管理を行うことが難しく、体外循環を使用することができないことがあります。その場合、吸入・局所麻酔によるTAVRを選択できる場合もあります。
  • 悪性腫瘍
    (体外循環により悪性腫瘍が全身に播種する可能性があり、体外循環を使用することができません)
  1. 予後(寿命)を最も左右するのが大動脈弁狭窄症である方
  • 予後(寿命)を規定する他の疾患を有さない方
  • 悪性腫瘍など他の病気があっても一年以上は生存できると見込まれている方。
  1. 非常に高齢である方
  • 85歳以上
    開胸手術では術後に活動度が低下する可能性があり、術前の生活状態に戻れない可能性があります。
    認知症のために手技の危険性が理解出来ない場合には、適応とならないこともあります。
    このような場合には、TAVR施行前に経皮的バルーン大動脈弁形成術(PTAV)を行い、TAVR施行が可能かどうかを検討します。

PTAVについてご相談されたい方は、ご案内(PDF)依頼表(PDF)もご覧ください。

7 TAVRの対象外患者さん

また、以下に示すような方は現時点ではTAVRが受けられませんのでご注意ください。

  • 透析中の方
  • 大動脈弁が二尖弁の方
  • 重度の心不全、呼吸不全がある方
  • 高度の弁逆流がある方(特に大動脈弁閉鎖不全症)
  • 余命1年以上を期待できない末期の悪性疾患がある方
  • 活動性のある感染症の方
  • 心臓内に腫瘍、血栓、贅腫(細菌の塊)のある方
  • TAVR治療を理解できない、または、同意できない方
  • その他
8 TAVRの利点

大きな切開を必要としない

 上述のように、太ももの付け根(鼠径部)あるいは左胸に、それぞれ数cmの皮膚切開を行い、手術を行いますので、大きく胸を切る必要はございません。

  1. 人工心肺や心停止を必要としない
    X線の透視下にカテーテルを用いて大動脈弁を留置する手術ですので、大がかりな人工心肺や心停止を必要としません。
  2. 麻酔時間、手術時間が短い
    通常の心臓手術では半日かかることもありますが、TAVRでは順調にいけば、手術時間の短縮が図れ、術中の体の負担もより少なくすみます。
  3. 手術からの回復が早い
    傷が小さいこと、手術による体のダメージが大幅に軽減されることから、術後のリハビリが、早期に始めることができます。

 ただし、TAVRでは通常の心臓手術とは違う特殊な合併症が起こりうるため、私たちはすべての患者様に以下の対応をさせていただいています。

  • 術前の精密検査(カテーテル検査、高精度造影CT検査、呼吸機能検査など)
  • 適応に関しての、院内ハートチームによる十分な検討
  • 手術術式のリスク評価
9 TAVRの成績および死亡率

 TAVR治療は、外科的手術の適応とならないリスクの高い患者さんが治療対象で、治療前より心臓のみならず多臓器にも様々な障害を受けているため状態のため、その発生頻度をゼロにすることは出来ません。この治療がはじめられた当初は合併症の率が高かったですが、使用物品の改良、経験の蓄積により、年々成績が改善しています。アプローチ部位、施設や地域、施行された年代により異なりますが、欧米で行われた治験や治療後調査の結果から、手技成功率は95%以上、術後30日間の死亡率は約5%程度まで改善しています。さらに、本邦での成績は、現在、術後30日間の死亡率は約1%程度といわれております。

10 患者さん・近隣の先生方へのご案内
  • 病状のご相談は、循環器内科外来まで、お電話にてご連絡ください。
  • 外来のご予約は、お手数ですが診療情報提供書をご記載の上、医事課新来予約受付担当・紹介予約まで、 FAXをお願いします。
    *注意!:“地域医療連携福祉センター”から“医事課新来予約受付担当・紹介予約”に予約部署が変わりました。
  • TAVRに関するご質問やご相談を、“メール”にてされたい場合(相談者:医師限定)には、TAVR専用アドレスまで、メールにて、お手数ですが、ご連絡いただけますと幸いです。
    *メールでのご相談の場合には、患者さんの氏名など、個人情報を記載されない様にご注意ください。

<ご相談をされたい場合>

循環器内科外来

TEL:011-706-5675 または 5676(日中8:30~17:00まで)

<外来のご予約をされたい場合>

医事課新来予約受付担当・紹介予約

診療情報提供書のFAX番号:011-706-7963
日中8:30~17:00まで(16時30分以降の受付は翌日対応になります)

診療情報提供書には、必ず、“KEY WORD”として“TAVR(TAVI)の検討”、または、“病名:大動脈弁狭窄症”のどちらかを記載していただけますと幸いです。お手数ですがよろしくお願いします。

*医事課新来予約受付担当・紹介予約のTELは、011-706-6037でございますがご相談は、上記「循環器内科外来」までお願いします)。

<TAVRに関して、メールにて下記医師にご相談されたい場合>

医師限定

TAVR専用メール: tavrshoukai@med.hokudai.ac.jp
*メールでのご相談の際には、患者さんの氏名など、個人情報を記載されない様にご注意ください。

<循環器内科TAVR担当>

  • 神谷 究(かみや きわむ)
  • 浅川 直也(あさかわ なおや)

<循環器外科TAVR担当>

  • 新宮 康栄(しんぐう やすしげ)