北海道大学 大学院医学研究院 内科系部門 内科学分野 循環病態内科学教室

留学だより

Study Abroad Guide

水島 航

留学先:Rutgers New Jergey Medical School (USA)

2018.04.08

2016年10月から,Rutgers University New Jersey Medical SchoolのCell Biology and Molecular Medicine分野で研究留学をしています。ボスは九州大学循環器内科出身の佐渡島 純一先生で、2003年より今のラボを運営されており、豊富な遺伝子改変モデルマウスと分子生物学的手法を用いて、毎年のようにCirculation Researchといった一流雑誌に論文を発表されています。ラボでは、① 酸化ストレス、② オートファジー、③ Hippoシグナリングが3大研究テーマとなっており、私を含めて5人のポスドクと3人のPhDコースの学生が日夜実験に励んでおります。私に与えられた主要な研究テーマは、酸化ストレス、特に活性酸素 (ROS : Reactive Oxygen Species)の供給源となるNADPH oxidase 4 (NOX4)の心筋ストレス環境下での役割の解明というものです。具体的には、ラボにいる心筋特異的NOX4ノックアウトマウスを始めとする様々な組織特異的NOX4ノックアウトマウス (骨格筋・脂肪組織・線維芽細胞・単球など)に高脂肪食負荷や急性圧負荷手術を行い、その表現型と分子メカニズムを明らかにすることを目指しています。ラボでは毎週の研究発表会や抄読会だけでなく、世界的に活躍している一流研究者を招聘しての講演会も定期的に開催されており、基礎研究をするには理想的な環境と言えると思います。

研究以外の生活についてですが、アメリカでの生活で強く思うことは、非常に多様性があるということです。アメリカ社会を表す言葉に“人種のるつぼ”というものがありますが、こちらで生活していると皮膚感覚でそれを理解することができます。アジア系、白人、黒人が何の違和感もなく同じ社会で生活しており、肌の色だけでなく体格も言葉も本当に様々です。私の世代が幼稚園や小学校の頃に使っていたクレヨンや色鉛筆の肌色という色は当然ながら存在しません(最近では日本でも肌色という呼称は使わなくなったようですが)。ラボにはアジア系(日本、韓国、中国、インド)のメンバーが多いですが、同じフロアのラボでは知っているだけでも、エジプト、オーストリア、 アルゼンチン、トルコ出身の方がいますし、娘がピアノを習っている先生はロシア出身で、テニスのコーチはペルー出身です。このような様々なバックグラウンドを持つ人々のエネルギーが融合して、色々な意味でパワーに溢れるアメリカという国を形作っているのだということを実感しています。

アメリカに住んでいると、日本との文化的な違いを意識する場面も多くあります。こちらでは、所謂“仕事後の付き合い”の習慣がほとんどなく、自宅の近所で居酒屋的なお店はほとんどありません。たいていのアメリカ人は、夜は家族と過ごす大切な時間だと考えているからです。また、新年よりもクリスマスが大事にされており、正月休みは元旦のみで1月2日から通常の仕事が始まるため、アメリカで初めて年越ししたときは強い違和感を覚えたものです。このような文化的な差異を理解し受け入れることは、これからの国際社会を生きていく上で極めて重要なことだと思われますので、私だけでなく3人の子供達にとっても大変良い経験になっていると感じています。

正直、海外で生活することに伴う細かい苦労を挙げるとキリがないというのもまた事実なのですが、人生において何事にも代え難い経験をすることができるだけでなく、海外留学で学んだことを医局に還元することで、多様性を持ったより魅力的な北大循環器内科を作っていくことに貢献できると思いますので、少しでも多くの北大循環器内科の若手医師や循環器内科医を目指す研修医・医学生が、海外留学を将来的な選択肢として視野に入れてくれれば、と願っております。

最後となりましたが、この場をお借りして海外留学の機会を与えて下さった筒井 裕之 前教授、留学の継続を快諾して下さった安斉 俊久 教授、心不全グループ研究リーダーの絹川 真太郎 前医局長、そして循環病態内科学および同門会の先生方へ心より感謝申し上げます。

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