北海道大学 大学院医学研究院 内科系部門 内科学分野 循環病態内科学教室

教授挨拶

Greeting from the Professor

ごあいさつ

北海道大学循環病態内科学教室は、1973年に全国に先駆けて循環器内科の完全講座として開設されました。私は、安田寿一先生、北畠顕先生、筒井裕之先生に次ぐ第四代教授として、2017年9月1日より赴任しております。伝統ある北海道大学で教室を担当する重責に身の引き締まる思いの一方で、以前より憧れていた生命科学の拠点において、学問を追究できる喜びに溢れ、今日も北の大地で全力を尽くしております。

北海道大学病院は、道内唯一の心臓移植実施施設であり、あらゆる重症循環器疾患に対応する最後の砦としての責務を負っています。また、全ての患者様に最善の医療をご提供することは勿論、世界の課題を解決するという北海道大学の理念に基づき、研究開発にも重点をおいています。そして、若者に循環病態内科学の魅力を伝え、ライフワークの創造を支援し、アカデミックな良心ある循環器医を育てることを使命としております。厳しいながらも、明るく開かれた雰囲気の中、臨床、研究、教育の三者を有機的に連携することで、トランスレーショナル研究の発展やフィジシャンサイエンティストの育成など、相乗効果が得られるような教室運営を目指しております。

この機会に、私のこれまでの循環器内科医・研究者としての道のりと私共が目指す教室の方向性をご紹介させていただければと思います。

循環器診療の醍醐味に魅了

私は、1989年に慶應義塾大学医学部を卒業後、大学附属病院で初期研修、関連施設で内科の後期研修を行いました。初期研修中に、意識もなくショック状態で救急搬送された患者様が、カテーテルや補助循環などの集中治療によって劇的に回復し、リハビリテーションを経て独歩で退院される姿に大変感動し、また、視診、触診のほか聴診器一つだけで様々な病態を論理的に判断する循環器診療の醍醐味に魅了され、この世界に生涯をかけようと決心いたしました。

後期研修の際には、循環器診療に積極的にかかわる傍ら、循環器以外の診療科の先生からも大変親身なご指導を賜り、症例報告を数多く経験させていただきました。また、一介の研修医が書いた論文を、世界の専門家が丁寧に査読して下さることがとても嬉しく、様々な領域の症例報告を海外医学雑誌に投稿していました。

日常臨床の中にある新規発見に感動

大学に帰室後は、急性心筋梗塞に関する研究に従事いたしました。梗塞前狭心症の存在は重症冠動脈病変を反映し、不良な予後の予測因子であるというそれまでの欧米の常識に反して、当時、基礎研究で明らかにされつつあったプレコンディショニング効果により、梗塞サイズを縮小させ、予後を改善させる効果があることを報告し、日常臨床の中に新たな発見があることに心が躍りました。

その後、心筋梗塞後に亜急性期心破裂を合併した症例の経験から、血清C反応性蛋白(CRP)値の上昇が心破裂の予測に有用ではないかと考え、大学でのデータベースをもとに解析を行い、CRPの高度な上昇が、亜急性期の心破裂だけでなく、心室瘤や1年間心臓死の予測因子となることを報告しました。症例から学び、仮説を立てた上で研究により検証することが、臨床に重要なフィードバックをもたらすことに大きな喜びを覚えました。

科学としての医学研究への目覚め

当時は、基礎研究で学位を取得することが当たり前の時代で、臨床研究と並行して不全心筋におけるG蛋白質共役受容体シグナリングに関する実験を行っていました。いざ研究を始めてみると、仮説を目の前で実証できる基礎研究の面白さにのめり込み、当時、多くの成果を発表していたカリフォルニア大学サンディエゴ校のH. Kirk Hammond教授のもとで研究したいと強く思うようになりました。今考えれば、大変無謀なことでしたが、幼い子供と妊娠中の妻を連れ、無給覚悟で留学いたしました。海外では医師として活動する資格もなく、実験もほぼ素人であったため、自分に何ら価値を感じることができず、アイデンティティーを失いそうになりながらも必死で研究をするうち、幸い米国心臓協会のグラントをいただくことができました。最終的に3年間の留学生活で、家族との絆の大切さを含め多くのことを学びました。

臨床と基礎の両輪による研究の推進

帰国後は、慶應義塾大学循環器内科の助手、講師として12年間にわたり病棟を担当しつつ、留学前に行っていた炎症・免疫応答に関する臨床研究を留学中の経験を生かしてトランスレーショナル研究に発展させ、梗塞後心不全、圧負荷心不全、糖尿病性心筋症、大動脈瘤、大動脈解離、慢性腎臓病、急性腎障害、メタボリック症候群などへと対象を広げ、臨床と基礎の両面からアプローチする研究に取り組んできました。

平成23年より国立循環器病研究センターに心臓血管内科部長として赴任し、豊富な症例をもとに、心筋梗塞、特発性心筋症や心サルコイドーシス、弁膜症などの病態における炎症・免疫応答に着目した病理学的研究のほか、左室駆出率の保持された心不全に関する多施設共同研究(JASPER研究)や経カテーテル大動脈弁置換術の最適化ならびに費用対効果改善を目指した多施設共同研究(TOPDEAL研究)、2013年9月に国立循環器病研究センターにおいて全国に先駆けて立ち上げた循環器疾患に特化した多職種協働緩和ケアチーム活動に関連して、循環器緩和ケアの診療の質評価指標の策定に関する研究にも従事してきました。最先端医療に取り組むだけでなく、高度医療の適応とならない特に高齢の心不全患者においては、生活の質改善を目指した緩和ケアも重要であると考え、循環器領域における適切な緩和ケアの普及に向けて、厚生労働省のワーキンググループや委員会のメンバーとしての活動も行っております。

将来の指導者を育てるという使命

国立循環器病研究センターでは、教育研修部長を兼務し、多くのレジデントの臨床教育に携わっていたほか、全国の大学と協力して連携大学院を開設し、若手医師の学位指導も行っておりました。ただし、研究は学位の取得のためだけでなく、良き臨床医になるために大切であり、生涯に渡って研究を継続することが、医師としての自己研鑽にも繋がると考えております。臨床と研究を常にリンクさせ、日常臨床で得た疑問を臨床研究で検証し、基礎研究で実証して臨床に還元させることがライフワークにも繋がるのではないかと思います。近年、基礎研究を行う医師や留学を志す若者が減少しつつありますが、良き臨床医となって質の高い臨床研究を行うためには、基礎研究の経験が大変重要であり、そうしたフィジシャンサイエンティストを育成し、将来の指導者を育てることが伝統ある当教室の使命だと考えております。

北海道大学では、心不全、虚血、不整脈、心エコー、画像診断など様々な領域で、充実した指導者のもと、臨床ならびに基礎研究を行う環境が整っており、医学部基礎分野との共同研究も行っています。また、薬学部、工学部をはじめ多くの学部が同じキャンパス内に集約されており、総合大学の強みを生かした共同研究も可能です。さらに北海道大学は、国家型大規模プロジェクトであるセンター・オブ・イノベーション(COI)プログラムにおいて「食と健康の達人」拠点に指定されており、当教室では産官学連携の研究にも取り組んでおります。

道民の健康と幸福に貢献

北海道における循環器診療の最後の砦として、大動脈弁狭窄症、僧帽弁閉鎖不全症など構造的心疾患に対する経カテーテル治療のほか、植込み型補助人工心臓、心臓移植などの高度医療に加え、難治性心不全に対する多職種協働チームによる緩和ケアなども導入し、道内各地の関連施設と協力しながら、道民の健康と幸福に貢献することは当教室の責務です。

道内各地には、北海道大学の関連施設があり、地域の中核病院としての役割を担っています。多くの症例を初診時から経験することができるため、特に若い世代の医師にとっては、貴重な研修の場となっており、同門の指導医の先生方から親身な指導を受けることができます。関連施設との人事交流も盛んで、優れた診療能力を備え、リサーチマインドを忘れることがないアカデミックな先生方が指導的立場となってご活躍されています。

北の学問拠点で大志を抱く

以上が当教室の現状と目指している方向性です。是非、多くの若い医師の方々に大志を持って当教室にお越しいただき、充実した循環器内科医としての人生を歩んでいただければと思います。

Be ambitious!