Department of Cardiovascular Medicine

心不全・心筋症研究グループ

心不全・心筋症研究グループ

スタッフ

研究内容

当研究グループでは個別化医療(Precision Medicine)を目的とした心不全大規模レジストリ研究、心不全の血行動態に関する研究、心筋症(特に心臓サルコイドーシス)、腫瘍循環器などの臨床研究および慢性ストレスに着目した心不全の分子病態に関する基礎研究プロジェクトを軸に心不全に関する多面的な研究を推進しております。

心不全の個別化医療を目指した多施設研究:ELMSTAT-HF

高齢化社会の進行に伴い、心不全罹患症例は増加の一途をたどり、厚生労働省の試算では2055年までにわが国の人口は約3割減少する一方、75歳以上の高齢者の割合は約3割に増加し、心不全患者は約120万人に達すると推測されています。そのため、わが国の心不全入院患者の約35%は1年以内に再入院し、約8%が死亡するとされ、医療経済的にも心不全診療への介入は喫緊の課題となっています。

#01

2000年以降、心不全に対する薬物療法は劇的な進歩を遂げ、世界標準とされる欧米の心不全診療ガイドラインにおいてもレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬およびβ遮断薬を軸とした「至適薬物療法」が強く推奨されておりますが、これら薬剤を適切に用いたとしても不良な予後をたどる症例は少なくない一方で、至適薬物療法に対する効果予測指標は確立していません。
また、わが国の心不全ガイドラインはその多くが欧米のエビデンスに基づいておりますが、近年人種間・地域間の心不全像および診療実態の差がクローズアップされております。最近我々は英国との共同研究で、米国で確立された予後予測モデルが日本人には十分に当てはまらないこと、特に死亡率を過大評価することを明らかにしました。
我々は北海道内の関連施設や全国の有志施設、そして東北大学東北メディカル・メガバンク機構、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構、本学工学研究院とともに心不全大規模レジストリ構築と各種個別化解析(バイオマーカー、ゲノム、メタボローム)技術、人工知能技術を癒合し、本邦における心不全個別化診療基盤の構築、最終的には欧州、米国データベースとの比較検討を行うことで、世界の心不全ガイドライン適正化に向けて重要なデータを発信することを目的としています。

#02

ELMSTAT-HF研究の概念図

心不全・循環器疾患データベース研究

心不全の原因疾患は、虚血性心疾患、心筋症、弁膜症など多岐にわたり、薬物療法、冠動脈インターベンションおよび外科治療の著しい進歩の結果、1990年台から2000年代にかけて、大幅に生命予後を改善させることに成功しました。
高齢化社会の進行に伴い、従来左室機能低下が心不全の中心病態と考えられてきましたが、1990年台後半から左室機能が保持されている症例にも心不全を発症する(Heart Failure with Preserved Ejection Fraction: HFpEF)ことが明らかになり、入院心不全の約4割がHFpEFであると言われています。我々は国内外の施設と多施設共同研究を推進しており、心不全に関する様々な予後関連因子を明らかにしてきました。当科教授を中心として全国規模で行われた本邦におけるHFpEF診療実態調査研究(JASPER研究)からも、多くの研究成果を発信しております。また、心不全の枠組みのみにとらわれず、日本循環器学会JROAD-DPCや、日本心血管インターベンション治療学会J-PCIデータを用いたビッグデータ解析、無作為化比較試験の副次解析(REAL-CAD等)にも積極的に参画し、研究成果を継続的に発信しております。さらに、無作為化試験にも積極的に取り組んでおり、現在国立循環器研究センターなど多施設共同で急性心不全に対するカルペリチドの長期予後に対する効果を検証しています(LASCAR-AHF試験)。

心不全血行動態研究

心不全患者を診療する際、正確な血行動態の把握に基づき血管拡張薬や利尿薬による治療適正化を行うことは予後的観点からも極めて重要です。我々は、心血管カテーテル室を中心に関係各部署と連携を取りながら、心エコー、MRI、血管エコーなど各種画像診断を用いて、低侵襲かつ正確な血行動態の推定法を開発する研究を行っております。
最近の研究成果として、超音波VTQ法により測定された入院時肝硬度の上昇が心不全の不良な予後と関連していることを示しました。また、この肝硬度を肝臓MRI(MRエラストグラフィー)により測定することで、鋭敏に右房圧の上昇を検出可能であることを世界で初めて報告しました。
また、TAVR前後の血行動態を最新画像解析技術である4D flow MRIを用いて可視化する研究を行っております(詳細は構造的心疾患研究グループの項参照)。

#03

MRエラストグラフィーによる右房圧の推定

#04

4D flow MRIを用いたTAVR前後の血行動態変化

さらに、2019年11月からは心不全患者に対する運動負荷カテーテル検査も開始しました。HFpEFや構造的心疾患症例における病態解明そして治療効果判定など多くのメリットが得られる検査であり、今後多くの研究成果を発信して行きたいと考えております。

心筋症:心臓サルコイドーシス

サルコイドーシスは原因不明の全身性炎症性疾患であり、肺・心臓・皮膚・眼など様々な臓器に活動性炎症(類上皮細胞肉芽腫)を形成することにより臓器障害を引き起こします。特に心臓病変(心臓サルコイドーシス)の合併は重大な予後規定因子となるため、心臓病変の早期発見・早期治療が求められています。現在までに我々は本疾患の病態解明・新規診断・治療法の開発に関する様々な検討を行っており、日本循環器学会の心臓サルコイドーシス診療指針(ガイドライン)作成にも関わってまいりました。
今までの経験を生かし、本学放射線診断科、病理診断科、共同研究を続けている国立循環器病研究センターなどと連携しながら心臓サルコイドーシスの病態解明を目指します。

腫瘍循環器

がん治療や診断法の著しい発展は、がん患者の予後を改善し、がんサバイバーの増加をもたらしています。その一方で、人口の高齢化に伴い心血管疾患を合併したがん患者が増加し、がん化学療法による心不全を代表とする心血管合併症が、がん治療継続を困難とさせている問題に直面することがあり、がん患者の心血管合併症の制御はきわめて重要な課題になっています。
近年、がんの分子生物学の進歩に伴い、がん細胞の増殖、浸潤、転移を制御する特異的な分子が同定され、これらを標的とする薬剤(分子標的薬)の開発が進み、特にチロシンキナーゼ阻害薬のがん患者への臨床応用が盛んに行われています。
しかしながら、チロシンキナーゼ阻害薬は左心機能低下・心不全・心筋梗塞・高血圧といった多彩な心毒性を有することがわかってきました。代表的なチロシンキナーゼ阻害薬による左心機能低下の頻度は、スニチニブ(2.7~19%)、パゾパニブ(7~11%)、ソラフェニブ(4~8%)、イマチニブ(0.2~2.7%)、ダサチニブ(2~4%)、ニロチニブ(1%)であると報告されています。心毒性の機序としてミトコンドリア毒性や微小血管内皮細胞の障害などが考えられており(下図)、一般的には用量依存性がなく、投与中止により心筋障害は回復する可能性が高いとされていますが、中には不可逆的な心筋障害を呈する症例も散見され、チロシンキナーゼ阻害薬の心毒性に関してよくわかっていない部分もあるのが現状です。
さらには、チロシンキナーゼ阻害薬による左心機能低下・心不全の早期発見には何が適しているか(心筋バイオマーカー、左室駆出率、左室長軸方向グローバルストレイン、左室拡張機能指標など)、そのリスク因子、またそのような心毒性が認められた場合にACE阻害薬やβ遮断薬といった心保護薬導入が心機能の改善に起与するかあるいは心保護薬の予防投与により心毒性を抑制できるかなどのエビデンスはアントラサイクリン系抗癌剤やトラスツマブのような薬剤とは違って構築されていません。
そこで、当研究グループでは、他科とも協力しながら、チロシンキナーゼ阻害薬を導入予定あるいは導入されたがん患者のデータベースを作成し、後方視的あるいは前方視的研究を行うことで、上述のチロシンキナーゼ阻害薬による心毒性に関するクリニカルクエスチョンを明らかにしていきたいと考えています。

#05

チロシンキナーゼ阻害薬による心毒性の機序

慢性ストレスに着目した心不全の分子病態に関する研究

現代社会は、経済的に豊かになり、便利で快適ですが、その一方でストレス社会とも言われています。これまでの研究から、精神的ストレスと心臓病、心不全の関連が指摘されていますが、その分子病態は明らかではありません。
我々は現在、本学遺伝子病制御研究所 分子神経免疫学教室(村上 正晃教授)と共同で、心不全と慢性的なストレス、自己反応性T細胞の関連を検討しています。慢性的なストレスはミエリン抗原を認識する自己反応性T細胞の存在下に、脳内の特定血管部位に免疫細胞の侵入口(血管ゲート)を作り、微小炎症をもたらすことで、新たな神経回路の活性化を介して心臓病、心不全を引き起こす可能性があり、マウス突然死モデルによる検討を進めております。
自己反応性T細胞は、加齢依存性、さらにストレス依存性に血中に増加しますが、精神的なストレスにより疾患を呈する人もいれば、全く正常な人もおり、このようなストレスに対する感受性の個体間差は、自己反応性T細胞の数や抗原特異性、そして自己寛容の誘導の差に依存する可能性が考えられます。
慢性ストレスにより生ずる脳内の特定血管部位での微小炎症のメカニズムを詳細に解析し、ストレス依存性に同部位で発現亢進する因子を阻害することで、ストレスに関連した心疾患を抑制できる可能性があります。網羅的遺伝子発現解析を含む解析により、当該モデルの特定血管部位や心臓における神経細胞、免疫細胞、神経伝達物質の変容を解明し、将来的には生体内における自己反応性T細胞のマーカー、ストレスバイオマーカーの同定や新規創薬標的を策定することを目標としています。

#06

自己反応性T細胞と慢性ストレスによるマウス突然死モデル

主な原著論文

  1. Omote K, Yokota I, Nagai T, Sakuma I, Nakagawa Y, Kamiya K, Iwata H, Miyauchi K,  Ozaki Y, Hibi K, Hiro T, Fukumoto Y, Mori H, Hokimoto S, Ohashi Y, Ohtsu H, Ogawa H, Daida H, Iimuro S, Shimokawa H, Saito Y, Kimura T, Matsuzaki M, Nagai R, Anzai T. HDL Cholesterol and cardiovascular events in patients with stable coronary artery disease treated with statin: an observation from the REAL-CAD study. J Atheroscler Thromb 2020, in press.
  2. Kato Y, Nagai T, Manabe ON, Tsuneta S, Nakai M, Kobayashi Y, Komoriyama H, Omote K, Tsujinaga S, Sato T, Konishi T, Kamiya K, Iwano H, Anzai T. Usefulness of Liver Magnetic Resonance Elastography for Estimating Right Atrial Pressure in Heart Failure Patients. JACC Cardiovasc Imaging 2020; 13: 2050-2052.
  3. Aikawa T, Yamaji K, Nagai T, Kohsaka S, Kamiya K, Omote K, Inohara T, Numasawa Y, Tsujita K, Amano T, Ikari Y, Anzai T. Procedural Volume and Outcomes After Percutaneous Coronary Intervention for Unprotected Left Main Coronary Artery Disease. J Am Heart Assoc 2020: e015404.
  4. Funabashi S, Omote K, Nagai T, Honda Y, Nakano H, Honda S, Iwakami N, Hamatani Y, Nakai M, Nishimura K, Asaumi Y, Aiba T, Noguchi T, Kusano K, Yokoyama H, Yasuda S, Ogawa H, Anzai T. Elevated admission urinary N-acetyl-beta-D-glucosamidase level is associated with worse long-term clinical outcomes in patients with acute heart failure. Eur Heart J Acute Cardiovasc Care 2020; 9: 429-436.
  5. Kobayashi Y, Omote K, Nagai T, Kamiya K, Konishi T, Sato T, Kato Y, Komoriyama H, Tsujinaga S, Iwano H, Yamamoto K, Yoshikawa T, Saito Y, Anzai T. Prognostic Value of Serum Uric Acid in Hospitalized Heart Failure Patients With Preserved Ejection Fraction (from the Japanese Nationwide Multicenter Registry). Am J Cardiol 2020; 125: 772-776.
  6. Iwakami N, Nagai T, Furukawa TA, Tajika A, Onishi A, Nishimura K, Ogata S, Nakai M, Takegami M, Nakano H, Kawasaki Y, Alba AC, Guyatt GH, Shiraishi Y, Kohsaka S, Kohno T, Goda A, Mizuno A, Yoshikawa T, Anzai T. Optimal sampling in derivation studies was associated with improved discrimination in external validation for heart failure prognostic models. J Clin Epidemiol 2020; 121: 71-80.
  7. Omote K, Nagai T, Kamiya K, Aikawa T, Tsujinaga S, Kato Y, Komoriyama H, Iwano H, Yamamoto K, Yoshikawa T, Saito Y, Anzai T. Long-term Prognostic Significance of Admission Tricuspid Regurgitation Pressure Gradient in Hospitalized Patients With Heart Failure With Preserved Ejection Fraction: A Report From the Japanese Real-World Multicenter Registry. J Card Fail 2019; 25: 978-985.
  8. Oe Y, Ishibashi-Ueda H, Matsuyama TA, Kuo YH, Nagai T, Ikeda Y, Ohta-Ogo K, Noguchi T, Anzai T. Lymph Vessel Proliferation on Cardiac Biopsy May Help in the Diagnosis of Cardiac Sarcoidosis. J Am Heart Assoc 2019; 8: e010967.
  9. Hamatani Y, Nagai T, Nakai M, Nishimura K, Honda Y, Nakano H, Honda S, Iwakami N, Sugano Y, Asaumi Y, Aiba T, Noguchi T, Kusano K, Toyoda K, Yasuda S, Yokoyama H, Ogawa H, Anzai T. Elevated Plasma D-Dimer Level Is Associated With Short-Term Risk of Ischemic Stroke in Patients With Acute Heart Failure. Stroke 2018; 49: 1737-1740.
  10. Nagai T, Sundaram V, Shoaib A, Shiraishi Y, Kohsaka S, Rothnie KJ, Piper S, McDonagh TA, Hardman SMC, Goda A, Mizuno A, Sawano M, Rigby AS, Quint JK, Yoshikawa T, Clark AL, Anzai T, Cleland JGF. Validation of U.S. mortality prediction models for hospitalized heart failure in the United Kingdom and Japan. Eur J Heart Fail 2018; 20: 1179-1190.
  11. Nagai T, Honda Y, Nakano H, Honda S, Iwakami N, Mizuno A, Komiyama N, Yamane T, Furukawa Y, Miyagi T, Nishihara S, Tanaka N, Adachi T, Hamasaki T, Asaumi Y, Tahara Y, Aiba T, Sugano Y, Kanzaki H, Noguchi T, Kusano K, Yasuda S, Ogawa H, Anzai T. Rationale and Design of Low-dose Administration of Carperitide for Acute Heart Failure (LASCAR-AHF). Cardiovasc Drugs Ther 2017; 31: 551-557.
  12. Asakawa N, Uchida K, Sakakibara M, Omote K, Noguchi K, Tokuda Y, Kamiya K, Hatanaka KC, Matsuno Y, Yamada S, Asakawa K, Fukasawa Y, Nagai T, Anzai T, Ikeda Y, Ishibashi-Ueda H, Hirota M, Orii M, Akasaka T, Uto K, Shingu Y, Matsui Y, Morimoto SI, Tsutsui H, Eishi Y. Immunohistochemical identification of Propionibacterium acnes in granuloma and inflammatory cells of myocardial tissues obtained from cardiac sarcoidosis patients. PLoS One 2017; 12: e0179980.
  13. Honda Y, Nagai T, Ikeda Y, Sakakibara M, Asakawa N, Nagano N, Nakai M, Nishimura K, Sugano Y, Ohta-Ogo K, Asaumi Y, Aiba T, Kanzaki H, Kusano K, Noguchi T, Yasuda S, Tsutsui H, Ishibashi-Ueda H, Anzai T. Myocardial Immunocompetent Cells and Macrophage Phenotypes as Histopathological Surrogates for Diagnosis of Cardiac Sarcoidosis in Japanese. J Am Heart Assoc 2016; 5; e004019
  14. Nagai T, Nishimura K, Honma T, Higashiyama A, Sugano Y, Nakai M, Honda S, Iwakami N, Okada A, Kawakami S, Kanaya T, Asaumi Y, Aiba T, Nishida Y, Kubota Y, Sugiyama D, Okamura T, Noguchi T, Kusano K, Ogawa H, Yasuda S, Anzai T. Prognostic significance of endogenous erythropoietin in long-term outcome of patients with acute decompensated heart failure. Eur J Heart Fail 2016; 18: 803-13.
  15. Nagai T, Nagano N, Sugano Y, Asaumi Y, Aiba T, Kanzaki H, Kusano K, Noguchi T, Yasuda S, Ogawa H, Anzai T. Effect of Discontinuation of Prednisolone Therapy on Risk of Cardiac Mortality Associated With Worsening Left Ventricular Dysfunction in Cardiac Sarcoidosis. Am J Cardiol 2016; 117: 966-71.
  16. Nagai T, Kohsaka S, Okuda S, Anzai T, Asano K, Fukuda K. Incidence and prognostic significance of myocardial late gadolinium enhancement in patients with sarcoidosis without cardiac manifestation. Chest 2014; 146: 1064-1072.